こんにちは、シバタアキラです。いつものことですが久しぶりのエントリー。今回は、先日同タイトルにてデータサイエンス協会の年次シンポジウムでお話した内容と、11月末にDataRobotで行った過去最大のAI Experienceイベントからデータサイエンスの「今」を切り取ってお話ししたいと思います。
その前に、先日ボストンのDataRobot本社に行ったときのこと。DataRobot Japanでは毎年日本からご希望いただいたお客様をボストン本社にお連れしているのですが、今年は10月に移転したばかりの新しい社屋に30ほどのお客様・パートナー様をお連れしました。その中の一社のお客様で、データサイエンス部門のリーダーの方が、DataRobot CEOのジェレミーと面談したときのこと
弊社ではこれまで数十人からなるデータサイエンティストのチームが、社内でのAI活用を実現しようと取り組んできましたがなかなかうまく行きませんでした。しかし、DataRobotが弊社でAIの民主化を推進し、事業の現場でシチズンデータサイエンティストがAI活用をするようになってから、これは大きく変わりました。
そしてジェレミーと固い握手をしたのです。私にとってはここ4年間の中でも特筆して目頭が熱くなる瞬間でした。
データサイエンティストがユニコーンと煽てられ、セクシーな給料が話題になりはじめた頃、データサイエンティストは草食ってるだけでも可愛がられたものです。私の周りは当時アカデミアでしたので、「自分はデータサイエンティストなどではない」と言って 「なんとかフェロー」とか「なんとかリサーチサイエンティスト」とかの硬派な肩書を名乗ってましたが、そういう人たちもある日を境に皆Linked In上では「データサイエンティスト」と改名していましたw。
DataRobotはこの状況を早くから予見し、データサイエンティストの専売特許と思われていた魔法を大幅に自動化し、この状況に一石を投じただけでなく、「AI民主化」「データサイエンスの民主化」と書いた大きな旗を振り多くの企業に採用されました。その過程では、データサイエンティストがそれまでの優位性を認めてもらえなくなるという恐れから、自動化ツールに反対的な姿勢を見せることもありましたが、この活動が実を結び、上記のようなお客様の成功も数多く語られるようになると、いよいよ時代は変わり始めたと感じるわけです。
その一方で、データサイエンスの台頭をいち早く取り入れようとしてきた企業では、「AI人材100人育成」などの目標を掲げ、社内でPythonやディープラーニングの教育を核としたDS養成プログラムを推進して来た結果大きな結果を出せずにAI推進を減速させる企業もでてきました。先10年で1700兆円(今の中国とインドのGDPの和より大きい)の価値を生み出すと言われている中、これには驚きもありましたが、データ活用において重要なのは人材の質もさることながら、アウトプットに対するゴール設定です。データを大量に蓄積し、AI技術を扱える人材を増やすことがゴールになってしまい、活用テーマの創出に力を入れなければ、価値のある効果はでてこないのです。
ですから、事業担当者を早期から巻き込み、ビジネスインパクト(RoI)に主眼を置いた課題の吸上げを行うこと。一方生成されたモデルを実際に業務実装していくためのプロセスをテーマごとにマネジし、データサイエンティストにとどまらず、デプロイエンジニアとの連携を意識しないと、苦労の末出来上がったモデルも使われず仕舞いという例を何度も見てきました。この問題はデータ活用が一周した企業では徐々に意識されてきており、USでは今年から、いかに本番システムで機械学習をシステムに載せ、運用していくかということを解決するためのMLOpsという分野に注目が集まってきました。
2016年に始めたDataRobot AI Experienceでは先月3回目の開催にて、過去最大の3000人を動員し、DataRobotがAIのビジネス活用にいかに活用されているかを多くのお客様にお話いたしました。製造・小売・金融・ヘルスケアなどのフォーカス領域に加え、オリエンタルランドさんがディズニーランドでの需要予測にAI活用などをお話してくれたり、様々な業界においてAI民主化にDataRobotが強烈に役立っていることが映し出されました。今年のテーマは「AIサクセス」、技術にフォーカスを当てるのではなく、AIで成功する組織にどの様な変化が起こっているのか、を主題にしました。
私の基調講演では昨年話題になったAIの本に、Kai-Fu Leeの本の引用から、AI利用のフィードバックループについてお話しました。つまり、
- AIの利用によってより良いサービスよりよい製品をつくり、集まったデータで更にAIが賢くなっていく
- AIがどの様なテーマで価値を創出するのか理解することで知見がたまり、更に価値のあるテーマで技術適用を行うことができるようになる
これらのフィードバックループがあるから、先行してAIの導入を成功させた企業は更に大きな先行者利益を手にすることができるのです。実際にDataRobotのお客様も独自の活用テーマや手法を編み出し、その内容は競合優位の源泉として社外秘にしているケースも見られます。私個人としてはどんどんお話してほしいのですがw。いずれにしてもDataRobotではこの様な循環の足がかりを作るため、AI活用候補課題の優先順位付けをお手伝いしてきました。各課題をビジネスインパクトと実現可能性(データの有無や、必要な技術インフラなどから)の軸で評価し、実施の優先順位をつけます。
当然、インパクトが高くて実現可能性が高いところは限られてくるのですが、まずはそこで成功体験を積んで行く。その間実現可能性の低い課題の成功確率を上げていくための基礎固めをしていく。こうすることで持続的なRoIの創出が可能になっていきます。
一方で、前述のオリエンタルランドの近藤さんはじめ、何度か聞かれたのがRoIを追い求め過ぎることに対する警鐘。RoIの追求は概して短期的な価値創出に走る傾向があって、でも実はこれから長期的に大きな、場合によっては今まで考えもしなかった様なAI活用をしていくには、RoIを度外視した自由なR&Dも戦略的に行っていくべき、という考え方です。当然今後1700兆円の価値を生み出し、あらゆるインダストリーに影響を与える技術であるならば、そのような長期目線での自由な発想も支援していかなければならないと自省しました。
イベントの最後の特別講演では、滋賀大学データサイエンス学部学長の竹村先生と、ヤフーCSO(及び様々な肩書でご活躍)の安宅さんにご登壇いただき、データサイエンス教育についてパネルディスカッションを行いました。滋賀大学の人気はデータサイエンス学部開設後、うなぎのぼりだそうです。
来年度ついに日本で初めて『データサイエンス』学位を持つ学生が卒業することもあり、その行き先や、受け入れる側の企業の準備などのお話をしました。また、DataRobotが機械学習を自動化したことで教育はどう変わるかという問に関しては、お二人とも口を揃えて今後もデータサイエンス教育の重要性は変わらず、とのご意見でした。何しろデータ・AIの活用はまだ黎明期ですから、今後も様々な技術が生まれ、また各業界で大きな価値を生み出していくためには、深いドメイン知識を持ったデータサイエンティストが技術活用を推進していかなくてはなければ成功することはできない、と熱く語っていただきました。これからも、データサイエンスの民主化を通じて革新的なAI活用方法を生み出して行きたいと、決意を新たにした夜でした。その時の様子はグラフィックカタリストの佐久間さんにグラレコにしていただいたので、ここに共有します。