「解析機関はその言語で心理をつまぐり、人類の諸目的のための実装置となるでしょう」

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「解析機関」(Analytical Engine)とは、現在で言うところの「コンピューター」が、世界ではじめて理論的に考案された時に使われた名前である。その当時 “Computer”といえば、まだ内職で計算をし、三角関数表や対数表などを制作していた人々のことを指していた。日本でも高校の教科書の後ろの方についていたことで覚えている人もいるかもしれない。

私がロンドン大学の学生だった頃サイエンスミュージアムで見た解析エンジンは歴史的な存在感を放っていた。

AnalyticalMachine_Babbage_Londonその完成度の高い外見から、当時の電卓のような扱いで使われていたものと思っていたが、実際にはこの機械は完成を見ることはなかったそうだ。イギリスの発明家、チャールズ・べバッジが解析機関を考案したのは1837年のことで、コンピューター発明への重要な布石となったアラン・チューリングの有名な論文よりも一世紀早い。べバッジのイギリス政府との関係を通じて、国家予算を投じた開発を取り付けるが、その先進的な発想を実現するには当時の技術的な制約が大きかったと言われる。

パンチカードに打ち込まれたプログラムを解析機関が読み込み、(考案時のアイディアでは蒸気を使って)その計算を自動的に行うという、ベバッジが構想した汎用コンピューターが現実になったのは1940年台のこと(世界最初のコンピューターはアメリカ陸軍が弾道計算ように開発したENIACと言われる)なので、いかに先を行っていたかが伺える。

その時に思想のフロンティアを押していたのはチャールズ・べバッジ本人に加え、エイダ・ラブレスというイギリス貴族の女性だと言われる。解析機関について書かれた論文に重要な注釈をつけて翻訳した人物として知られ、世界ではじめてアルゴリズムを機械上で動かすことによる実用性を認識した人物であると考えられる。それまで特定の計算しか行えなかった「階差機関」の概念を大きく拡張し、解析機関を「操作を遂行する機械」と定義した。下記の引用部分には神の先見性がある。

解析機関は、単なる「算術機械」と基盤を同じくするものではない、全く固有の位置を占めている。

解析機関はその言語で心理をつまぐり、その結果、私の従来の手段が可能にしてきたものより迅速で厳密な、人間の諸目的のための実装置となるであろう。かくして数学世界における、精神的なものと物質的なものだけでなく、理論的なものと実用的なものも、より親密で有効なつながりをお互いに持つに至るのである。

(ADA AUGUSTA, COUNTESS OF LOVELACE – from The Information)

試作品だけが残る解析機関を完成させようという試みが、2010年に始まったらしい。2013年の時点では、解析機関製作プロジェクトは進行途中の状態であり、完成してはいない。興味のある方は、こちらから:Plan28