こんにちは、シバタアキラです。目下モデルナ2回目と、オリンピック終了の副作用でダウンしています。今回のオリンピックはコロナ禍における開催の是非やら、開会式のクリエイティブマネジメントの失敗など様々な障壁がありましたが、日本人選手の大活躍や新競技の成功を通じて「開催してよかった」と感じた人が60%を超え、「開催するべきでなかった」と答えた30%弱を大きく上回ったとの調査も出ています。私は自転車やクライミングなどを自分でも楽しむこともあり、開催には大きな期待をかけていました。
何しろ半世紀ぶりの自国開催です。残念ながらコロナ対策によってそれを肌で感じられる場は首都高の特別料金に腹を立て混雑する下道を運転しているときに、オリンピックロゴ入りのアルファードを見た時くらいに限られました。1年前に急ピッチで完成した自宅近くのホテルは引き続き閑古鳥が鳴いていますし、経済効果は完全に空振りになってしまいました。世界に対して日本のカルチャーをアピールする機会も、週刊文春が報じた開会式の失敗を含め吹き飛んでしまいました。まさに今、このオリンピックは成功だったのか、様々な観点から検証が行われていますが、いちばん重要なことは選手たちがどのような結果を出すことができたのか、ではないでしょうか?データを使って、またデータの活用という観点から検証してみたいと思います。
自国開催に関する議論は多くが経済効果や文化発信に関することですが、選手たちにとってはどうでしょうか。慣れた気候・場所・食事、自国で勝ちたいという本気度、開催国枠の予選免除、自国観客の圧倒的応援、スポーツの国際大会で開催国が強いのは「定説」といえます。今回JOCは30の金メダルという強気の目標を出していました(結果は27)。過去3大会におけるメダル平均数が10に満たないことを考えると、大きな目標でした。一方で、新しいスポーツの追加などによりオリンピックのメダル数自体が毎回増えている事実もあります。メダルの授与されたスポーツの数を数えた時、今回の開催においてはメダル数が初めて1000を超えたようです。

メダルの数の変動を考慮し、ここからは全体のメダル数に対して何%のメダルを獲得してきたのかを見ていきたいと思います。特に自国開催を行うことは選手の結果にどれだけ追い風になるのか、という点です。今回の開催においても他開催時同様、開催国選手には様々なアドバンテージがありましたが、無観客開催であったため、応援の効果がなく、それがどのように結果に影響したのかということにも興味がありました。分析を進め見えてきたのが下記の結果です(コレツクルノチョットタイヘンダッタ)。

この結果の裏側にはとても幅広い背景がありますし、それを調べていくことも面白いと思います。例えば1936年のベルリンオリンピックは、ナチスドイツがプロパガンダの推進と国威発揚に利用し、初めて聖火リレーやライブ中継が行われるなど非常に気合の入った回だったことが数字にも現れています。同じくオリンピックを国威発揚の手段と捉えていた冷戦時代のソ連で開催されたモスクワオリンピックでソ連は歴史上最高の80の金メダルをとりましたが、それまでの平均が40以上だったため、ここにはそこまで大きな変化とは出ていません。
直近20年の大会を見ていると、自国開催のメリットは総じて1.5~2.0倍のメダル数で安定しています。北京オリンピック時の中国などはもっと極端な結果になるかと思ったのですが、かなりおとなしい増分になっています。そして注目はもちろん今回の日本。特に金メダルの獲得率は過去3回の平均の2.5倍となり、ここ最近のオリンピック史においてはでは特に大きなインパクトを享受していることから、本オリンピックにおいて日本が強力なプレゼンスを発揮することができたと言えます。余談ですが、本オリンピックの金メダル獲得は、アメリカが39に対し中国が38と拮抗していて、中国自国開催の2008年を除くとここまでの僅差になったことはありません。ここにも中国の前進が明確に現れています。
どうやって日本は今回の成功を手にすることができたのか、その背景の一つにデータ活用があったという話がとても興味深かったので紹介します。特に9年前のロンドンオリンピックで金メダル0だったところから逆に今回は金メダルの猛ラッシュになった柔道に関しては日経新聞も取材していました。「直近2年間の成績を大会のレベルやトーナメントの組み合わせ、対戦相手のレベルなどに応じて傾斜配分して点数化。単純に成績順位を積み上げただけの国際連盟発表の世界ランキングとは別に、独自の評価指標を作った。それまでの選考は議論のみで、五輪イヤーの春に開催される国内選考会が重視されがちだった。」さらに「国内外の試合を動画で撮影し、技や組み手の傾向を分析するシステムの構築を発案。今大会に向けては計4000選手、4万件を超す試合を分析し、海外選手の得意技から審判の反則を出す傾向まで研究した」という。
また、先日NewsPicksのインタビューで元110mハードルの谷川選手(今は筑波大准教授)が語っていたことが納得感が高かったです。今の時代練習や結果、食事や体調などに関する様々なデータが取得できるようになり、勝てる選手の種類が今までのような「根性のある選手」からそういったデータを活用できる「知恵のある選手」に変わってきたという指摘です。
この指摘を読んで思い出したのが、私が今回のオリンピックで最も印象的だった競技、女子自転車ロードレースでした。ほとんどノーマークだったAnna Kiesenhoferがレース序盤から異例の展開を仕掛け、最終的には後続集団から完全に忘れ去られるほどのペースを一人で保ち、優勝してしまいました。強豪オランダのAnnemiek van Vleuten(リオオリンピックの同競技で大事故に遭い、今回執念の復活を遂げた)が2位にゴールインしていながら自分の優勝を確信してしたというドラマチックな展開には手に汗握りました。日本でも優勝したAnna Kiesenhoferが数学の研究者(LinkedInや論文を見てもガチの研究者)という変わったバックグラウンドを持っているという話は聞いた方もいるかも知れません。彼女は今回のレースに向けてチームにも属さず、コーチもつけずに一人だけでトレーニングと体調管理を行い今回のパフォーマンスを達成したという話が驚きだったし、前述の様に「知恵のある」選手が新しい方法で勝ちに来たというストーリーの象徴的な出来事だと感じました。クライミング女子の野口&野中の話とか、他にも色々話したいことありますが、今回はこの辺で。正直クライミングに関してはもっとデータ活用できる幅もあると思いますし、先日アドバイザーになったYAMAPとも一緒にやっていきたいと思っています。