成長のために自分を開く

高長恭は500騎を率いて北周軍に対して再突入し、洛陽城西北角の金墉城にたどりついた。しかし、包囲が厳しかったため、城の守備兵たちには高長恭の率いる部隊が味方かどうか分からなかった。そこで高長恭が兜を脱いで素顔をさらしたところ、味方であること知った守備兵たちは弩を下ろして開門し、このことにより北周に勝利したという。

https://ja.wikipedia.org/wiki/蘭陵王

こんにちは、シバタアキラです。

改めて、自分のこれまでについて振り返る日々です。幸いにもこれまで類稀なる経験から自分を成長させる機会に恵まれてきたと感じています。3年も経つと過去の自分が恥ずかしくなるような変化を感じるとともに、最近では自分の組織のメンバーの成長の手助けもできるようになりました。その中でキーとなるのは、何よりも自分自身に対する深い理解を持つことです。なぜなら、自分のことを理解して相対的に位置付けることは、多くの場合他人のことを理解することにもつながるし、自分の特徴や他者との違いの理解に基づいてコミュニケーションをすることができるようになれば、他者との関係性を充実させることができるからです。

自分自身に向かい合うことは時として辛いことで、普段は目を背けているような自分の短所や、苦手なことに光を当てなくてはなりません。「自分の強みにだけフォーカスしろ」というのはたまにきかれますが、成長過程のヒューマンにはあまりいいアドバイスだとは思いません。さらに、そのような振り返りの過程や、そこで学んだことを周りの人たちに共有するのはとても勇気が要ります。「人のアドバイスなんか聞かず、自分の信じている通りにやれ」というのも、言われたことがありますが、本当に大切なのは「人からのアドバイスを聞き分ける(違いを区別するという意味の)こと」だと知りました。だから周りの人に共有することはマストではないけれど、私の経験ではそのようにして自分の弱みを見せること(英語だとvulnerabilityとか言いますね、発音難しいけど)は自分自身を受け入れる上でも、周りからの理解を得る上でも効果的だったと思います。

どのようにして自分のことを内省するのか。座禅を組んで修行するのももちろん一つだし、実際私もそういうこともしてきましたが、データサイエンティストとしてはもっとデータドリブンに、体型的にアプローチしたい。一方で自分のデータを片っ端からとってAIに入れたら何か教えてもらえるかと言うと、まだそういう世界はきていない。一方で、世の中には様々な心理学的理論や、経験則に基づいたフレームワークがあって、私もこれまでにもそういうツールをいくつか(振り返ってみると結構沢山)活用してきたので、その中から特に役に立ったものと、そこからの学びを共有したいと思います。もしこれを読んでいる人の中に

  • もっと自分は成長したいけれど、どのようにアプローチしたらいいかわからない
  • 自分のことを抑えられなくて損してしまうことがよくあるけれど、悪いパターンから抜けられない
  • 他者(特に同僚や家族)とのコミュニケーションを思い通りに行えるようにしたい
  • 今後自分がさらに成長していく上で、どのようなフレームワークがあるのか知りたい

という人がいれば、ぜひ参考にしてもらいたいと思います。

MBTI – 自分のタイプを知る

自分を理解する一つの方法に、他の人との対比の中から自分の特徴を掴むという方法があります。自分と他の人が違う、ということは頭では誰でもわかることですが、基本ヒューマンは自分が全ての起点になりますから相対的に自分を位置付けることは得意ではありません。また人の性格のタイプというのも無数にあり、どのようにカテゴライズすることで理解が深まるのかという点において、MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)はとても役に立ちました。おそらくこの手の性格診断的なものの中でも最も有名なものなので、知っている人も多いと思うし、私もこれまでに別の機会で2回受けました。2回受けると新しい発見があるのでおすすめです(2回目の講師はBCG同期だった渡辺寧先生の素晴らしい内容でした)。MBTIは心理学者ユングの理論を発展させたフレームワークで、その特徴としては

  • 一見不思議な4つの軸で人間の性格タイプを16に分けることで、自分の特徴を相対的に捉えることができる。(16のタイプが世の中にそれぞれ等しい数いるという話を聞いたことがあるけれど、本当?)
  • 事前に行うタイプ診断と、認定講師がリードするグループ解釈セッションを通じて、「自分とはこんなに違う考え方をする人がいるのか」とか、「自分は実はこんなことを重視する傾向があるのか」という示唆が得られる
  • 他のタイプに対する理解とリスペクトが深まり、他のタイプの人たちを尊重するコミュニケーションをできるようになったり、チームにおける自分の役割が明確になる
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MBTIの解釈の一つ(「人を16タイプに分類する性格診断テスト(MBTI)をやってみたらESTP(冒険家タイプ)でした」より)

という点が挙げられます。一方で、正しい期待値を持ってもらうために私の気づいたことを共有すると:

  • 優れた分類学ではあるけれど、たった四つしか軸はないし、少し理論的で実用性に欠けると感じられる部分もある
  • 基本的にはMBTIタイプはその人にとっては静的なものという前提が置かれていて、よって「どうしたら自分の望むような人間になれるか」というような問いに対する示唆は少ない、むしろ気づいていなかった自身の発見を主眼においている
  • 性格診断自体はオンラインでも受けられるようになっているけれど、意味のある示唆を得るためには認定講師の講習会に出ないと学びは少ない

私がMBTIを受けて学んだことは沢山あって、また日々の中から継続してその深さを認識させられることもあります。いくつかあげるとすると

  • MBTI講習会で頻繁にテーマになる(時として泣いちゃう人が出てきたり)こととして、思考と感情を対比させるTF指標。結果を達成するために論理的に行動する人と、自分や周りの人たちの感情を大切にするタイプの人の対比は、自分(典型的なT型人間)が思っていた以上に強く、逆にF型の人たちへの配慮によって今までは繋がれなかった人との関係性を作ることのきっかけになった
  • 自分はかつてからアイディアマンでありたいと思い、直感機能を鍛えてきた(N型)し、そのように振る舞ってきたけれど、実は元々はS型人間で、理論よりも事実や具体性から結論を導くタイプだと認識することができた
  • 自分は認定講師ではないけれど、2回MBTIを受けると、他の人を見たときに大体その人がどのタイプなのか見えてくるようになるので、それに基づいて伝え方を調節できるようになった。例えばJ型の人には事前にプランを伝えるようにする、とか

私が以前働いていたコンサルティングファームのBCGではMBTIが結構使われていて、お互いに「君はENTPだよね?わかるわかる」みたいな会話があったりするので、共通の言語で私はこのような性質のヒューマンですという話をオープンにできるようになり、コミュニケーションする上でお互いに気をつけないといけないことが事前にわかったりします。一方で、自分は本来ENTJ(優れたリーダーとされるタイプ)でありたいのに、ESTP(これが私のタイプ:「内向思考を伴った外交感覚タイプ」)である、などと現実との乖離を憂いたくなったとしても、それを変えようとすることはむしろ苦痛になる(できないとされている)ので、苦手なものは苦手と認め、学びの方向性を決めるのに使う方が効果的です。何よりもこのフレームワークに向かい合う上で重要なのは、それぞれのタイプには優劣があるわけではなく、違いがあるだけだという前提を持つことだと思います。

DiSC – 仕事における自分の長短を知る

MBTIにおける議論は根本的な人間性のタイプ分けに基づいていますが、そこから例えば仕事においてどのような示唆があるのかを導き出すのは講師やその人次第と言うところも多いですし、実用性よりも学術的な印象を受ける人が多いと思います。DiSCはWilliam Moulton Marstonと言う心理学者(どっちかというとWonder Womanの作者として知られている、ユングと同じく私生活もだいぶ興味深い)の研究に基づいたフレームワークで、四つの軸に基づいて診断を行うところはMBTIに似ていますが、性格タイプの分類よりも、それがどのように発現するのかに重きが置かれています。その特徴としては

  • 「D:主導・リーダーシップ」「i:感化・コミュニケーション」「S:安定・協調性」「C:慎重・分析力」という四つの軸になっていて、仕事におけるモチベーション、コミュニケーションやプロジェクトの進め方における癖などに役に立つ示唆が得やすい
  • 自分で知っていたけれどうまく説明できなかったことをアセスメントレポートがうまく言語化してくれるので、腹落ちする
  • 自分の特徴の中で、人にネガティブな影響を与えるところがどこにあるのか、自分の短所がどこなのかについても理解できる(「短所」という言葉は出てこないけれど、全てを肯定するMBTIよりも、短所は短所と認識しやすい)
D:主導(直接的、成果思考、断固とした、意志が強い、強引) i:感化(外向的、熱意のある、楽観的、活気がある、活発) S:安定(平成、順応的、忍耐強い、謙虚、そつがない) C:慎重(分析的、感情を表に出さない、緻密、人前に出たがらない、系統的)
DiSCタイプのまとめ(画像参照:http://japan-item.co.jp/disc/

アセスメントは四つの単語から自分を最も表していると思う言葉を選ぶというシンプルなもの(でもうまくできていて、どれを選ぶかすごく迷う)なのに、ここまで腹落ちする結果を出してくれるというのに感心します。一方でMBTIのように、あの人はDiSCで言うとクリエイティブ型だな、とかを見出すのは困難だと感じます。ちなみに私はインスピレーション型ということで、具体的にはこんなレポートが出てきました(4年くらい前、そこからもう少し成長したよ!):

  • 「あなたは他の人をモチベートしたり、新しいプロジェクトを始めるのが得意です。自分の持つ言語力を活かして、他の人たちにチャレンジを達成するための目的意識を作り出すことができます」
  • 「一方で、もしそのゴールに達成するのに障壁があると、言い争ったり交戦的な手段を取るでしょう。これはあなたがアグレッシブな手段を正当な手段であると位置付けているからです」「けれどもそのような手段を使わなくても周りの人を説得することはあなたの能力があれば十分にできるということを心得ましょう」
  • 「周りの人たちはあなたのカリスマに引き寄せられ、好意的に思う反面、”本当のあなた”がどういう人なのかわからず、時として距離を感じることになるでしょう。そのような印象を減らすには、周りの人たちの成長と成功のために積極的に力になることが効果的でしょう」

などなど、とてもダイレクトで、辛辣でもありながら、具体的なアドバイスをしてくれます。私もここに書いていてとても恥ずかしいレベルですが、こういうことは受け入れなくては成長できません。MBTIと比べてもとても具体的な結果が出るので、人によっては「自分はこんな人間ではない」と感じてしまう人もいるのかもしれませんが、私にとってはとても役に立つアドバイスが多かったです。DiSCも(おそらく非公式な)オンラインサービスで提供されているものがありますが、ここでは上記のようなレポートは出てこないので、認定提供しているところから受講するのが絶対おすすめです。

TLC – リーダーシップにおける自分の成長を考える

自分のことをよく知る、仕事においてもっと効果的な傾向を獲得する、という前述のフレームワークは多くの人の成長を助けるツールですが、組織における強いリーダーシップを獲得していくにはどうしたらいいのか?その問いに応えることを目的としたのがTLC(The Leadership Circle)です。現在リーダーとして活躍している人を対象としているので、今回紹介するフレームワークの中では一番知られていないかもしれませんし、MBTIやDiSCよりも深く自分の成長に向かい合うことが必要とされます。DataRobotのFounder&CEOだったジェレミーは、自分自身上記のようなツールも使ったセルフグロースハッキングに熱心な人で、自分自身の成長を周りの人たちも認めていましたし、周りの人たちにもそのようなアプローチを強く勧めてくれました。私にも、エグゼクティブコーチをつけるようにとアドバイスをくれ、以来お世話になっている黒木先生に紹介して貰ったのがTLCでした。

TLCはロバートキーガンという発達心理学者の成長ステージの理論に基づいています。この理論は、自己成長のステージを6つに定義し、一番上の「一体的自己」のステージはおそらくブッダとか、ガンジーとかそういうレベルのヒューマンと考えられます。そのステージにおいては「私は身体ではない。そして心でもない」と悟るとされています。そう、少し宗教じみていますねw。一方で、このフレームワークを使う多くの人は第3ステージの「反応的自己」と第4ステージの「創造的自己」の間あたりにいると考えられます。社会で活動して活動していく上では、自分のエゴだけでは何もできないということに気づき、周りの人との関係性や折衝の中からリアクティブ(反応的)に自分を定義していく段階から、周囲の期待とは関係なく、自分の内側から湧き出す力を使って自分を創るステージに移っていくという考え方です。

このフレームワークはこのように、画一的な成長モデルに基づいているところが特徴でもあり、弱みでもあります。また、この考え方が、TLCのアセスメントや、付随するコーチングとどのように関わっているのかがあまり明確になっていないところが、この手法自体の発展途上を表していると思います。とはいえ、とても他のツールにはない強力な特徴を持っています:

  • 360°評価のような他者評価を約10人の人たち(上司、同僚、部下、そして自分自身)に実施してもらうことによって、自分のリーダーシップにおける特徴を約30の軸に分解して示してくれる
  • 何よりも特徴的なのは、それぞれの軸における自分の評価と他者の評価を比較してみることができるという点で、自己認識と他者認識のギャップからこの先の成長の方向性を考えることができる
  • フレームワークは比較的複雑なので、その解釈やアクションへの落とし込みには、認定コーチとの1×1でのコーティングセッションを複数回受け、その進捗を確認する
The Keys to Effective Leadership - The Leadership Circle
TLCの診断結果の例(画像参照:https://leadershipcircle.com/ja/products/leadership-circle-profile/)

360°評価の仕組みを取り入れている企業もあると思いますが、それをさらに体型的にアプローチし人事評価ではなく積極的な自己開発のために使っていくイメージです。会社のリーダーとして成長するという具体的な目的を持って、特に自分と他者の認識のギャップのあるところや、これからの成長に必要となるが発現の低い軸などにフォーカスを当てていきます。自分の診断結果はあまりに生々しいので、ここには出しませんが、特に自分の変化につながったこととしては:

  • 360°評価同様、各回答者から定性的なコメントももらえるのですが、自分にとってはそれが一番役に立った。「常に上昇志向を持ち、自分に厳しいリーダーだ」「何も今と変える必要はない」などとコメントしてくれる人もいた一方、「忙しいかもしれないけどもっとビジョンを共有する時間を増やした方がいいのでは」「アキラのことをよく知るのは難しい」(上記DiSCでも出ていたポイント)など生身の同僚からのコメントが身に刺さります
  • 各軸における数値評価は、上司、部下、同僚に別れて出てくるので、それぞれの方向から自分がどのように評価されているのかコントラストが見えてきます。例えば自分の部下からはチームプレイを高く評価されていても、上司からはそのように見えていないというような点も見え、特に上へのコミュニケーションのやり方を変える必要を認識しました。
  • やはり私の場合は、「他者との関わり」軸における自己認識と他者フィードバックの乖離が大きく、成長課題の最も大きい点であると同時に、完璧主義で、過度な意欲があり、独裁的な行動を取るということが自分が思っていた以上に強く認識されているなど、本質的な変化もさることながら、周りにどのように自分を見せるのか、という点も考えさせられました(ちょっとずるいけど)

TLCは一人に対して行うために、自分にも周りにも多くのコミットメントが必要とされるため、実施には検討が必要です。私自身はとても良いタイミングで受けることができたことにとても感謝していると同時に、社内の何人かのリーダー人材にも受講してもらい、高いモチベーションにもつながる結果が出ました。

内省をオープン化して成長につなげる

今回は成長という巨大なテーマに関して、自分の助けになった考え方やツールなども併せて紹介してきました。組織の成長は個の成長と切り離せないというのが私の考えです。もちろんすでに優れた人たちを採用すればいい、という考え方も一方ではありますが、人を成長させるのが上手い組織はより深い絆で結ばれ、いざというときに無理がきくチームになっていきます。自己の成長と会社の成長をアラインさせる試みは今に始まったことではないですし、すでに成功事例も多数あると思いますが、どのステージの人にどのようなツールでアプローチしていくのか、その取り組みをどれだけオープンに行なっていくのか、個々の成長をチーム力に効果的に反映させていく取り組みは多くのチョイスを伴います。このように、組織の人材開発において採用と専門知識の獲得を超えた成長のマネジメントはPeopleなどと呼ばれるファンクションで取り組まれ、またそこにデータドリブンなアプローチを持ち込んでいくことも進んできてはいますが、「自己理解」などの受動的な行動をデータ化していくには大きなチャレンジが伴い、まだまだ発展途上にあるといえます。

多くの人たちにとって共通の課題である本テーマについて、考えを深めるきっかけになれば幸いです。